いけばな花材の固有の色は、それぞれ独自の生命と文化史を担っていて、単純な色彩理論で捉えられるものではありませんが、デザイン演習では、あえて抽象的な色として花材を扱う練習をします。
(1)調和と対比(対照・類似)
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↑Photo1 つばき、アビス
→Photo2 あおもじ |
花材の組み合わせを、まずは単純な2〜3色の配材から考えてみましょう。
基本的な考え方として、補色関係の色同士など、コントラスト(色相差)の大きい配色は、インパクトの強い表現になり、同系色でまとめれば、調和の取れた落ちついた表現になります。(Photo1・2)▲
↑Photo3 藤、ライラック、デルフィニウム
→Photo4 いちじくの葉 |
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色相差が大きくても、トーンを揃えたPhoto3や、葉の裏表を使って明暗差を使ったPhoto4など、対照と類似を組み合せた配色もまとまりを作れます。そんなところが基本です。▲
いけばなのテキストには、往々にして効果的な配材例などが示されていて、ついそれに頼ってしまうことも多いのではないでしょうか。
しかし、配色は自由に工夫していくことこそが生命線ですから、あまり
固定観念にとらわれず、色々な組み合わせを実際にたくさんこなしていくようにすれば、だんだんその人独特のカラーが身についてきます。▲
(2)ポイントカラー・アクセントカラー
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↑Photo5 もみじ、ゆり、なでしこ |
→Photo6 そてつ、風船とうわた、
クッカバラ、
花なす、けいとう
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同系色や類似トーンの配色で、単調さを破り全体を引き締めるのは、抑えた全体の色調の中に鮮やかな色調を加える、ポイントカラー・アクセントカラーの考え方です。▲
いけばなではふつう、見る人の視線を集める作品中心=花がこの役割をはたします。大量を占めるベースカラーに対して、対照的に加える小さな色という視点で、意図的な演出を考えてみましょう。
Photo5は枝で分けた上下に緑のもみじ葉と濃いピンクのなでしこのポイントカラーを配して、もみじの枝の赤もアクセントカラーになっています。Photo6は淡い黄緑から濃い緑までのベースカラーに、花なすの赤を少し加えて、緑のトーンの組み合わせに締まりを与えています。▲
(3)分割線と色面構成、セパレーション
↑Photo7 ニューサイラン、ガーベラ、もみじ
→Photo8 石化柳、ねこ柳、アンスリウム、モンステラ |
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配色する場合の分割される色面のきわに、区画割りの線として、枝や葉を入れると、各々の面の配色効果をくっきりと高めるセパレーション効果が生まれます。▲
セパレーションというのは、配色の補助として、それぞれの色を分離分割させてコントラストを調整し、配色のどぎつさを押さえたり、引き締めたりするデザインの方法なのです。
それらの分野では、アクセントカラーのような目立つ色ではなく、低彩度色を使います。
ただ、いけばなではPhoto7・8のニューサイランや柳のように、花との対比で、葉や枝を使えばたいていはすっきりまとまりますから、ぜひ試して見てください。▲
(4))ヴァルール(色価)とは
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←Photo9 やつで、あじさい、赤ドラセナ
↑Photo10 あかめがしわ、こくわづる
→Photo11 霧島つつじ、さざんか、
ドラセナコンシンネ、椿、小菊、たにわたり |
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絵画に奥行き(厚み)を与える手法として生まれたヴァルール(色価)という考え方も覚えておくと便利です。ヴァルール(色価)とは、立体空間の中のものの持つ奥行きをどう捉え、平面の絵画空間の中で伝えるかという技術の問題で、色彩によって平面作品に奥行き(厚み)を作り出すための絵画上の工夫のことなのです。▲
今では色彩相互の配置、調和関係などによる画面構成も意味します。絵画の色重ねの方法の一般論として、明色・高彩度・暖色が前、暗色・低彩度・寒色が後ろという原理は覚えましょう。
平面作品である絵画とは違ういけばなにヴァルールを応用すると、奥行きが誇張され、いけばなにも絵画的な意味での厚みが加わります。Photo9もヴァルールの原理をそのまま使って、高明色・高彩度を前、低明度・低彩度を後ろに取っていますし、Photo10は、枯葉や赤みの残る葉の性質を利用して、葉の色彩の差だけでふくらみを作っています。Photo11は、ヴァルールの原理を踏まえながら、5種の花材を彩色中心に構成した作品です。▲
(5)多色による色重ね
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↑Photo12 グロリオサ、
カンガルーポー、さざんか、
ピンクッション、胡蝶らん |
→Photo13 アンスリウム、
ダリア、金魚草、カラー、
モンステラ |
作品全体の重厚さや華やかさ、豪華さを見せたい時、多色を使う構成がぴったりです。相互の配色・色重ねの問題はより複雑になりますが、まずは同系色を中心にまとめるPhoto12のような方法や、ヴァルールの応用から始めるのが無難でしょう。▲
一方Photo13は、暗いダリアを前に置いているなど、ヴァルールの考え方とはまったく違っています。花器の色も含めた上から下への色相変化と明暗差を意識した配色で出来ているのです。
何かの 方法を見つけたらやってみるのがいちばんです。
こうした多色の構成も、流通している「色彩理論」や教えにただ従うのではなく、実際に自分でいけて確かめ、自分の配色を作っていく工夫が大事なことは言うまでもないからです。▲
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