陶磁器釉薬(鉄釉性状図)



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釉薬調合(高火度うわぐすりの調合)10
1992年3月27日・4月30日(パラントラ2巻9・10号発表)
(2007/11/17改訂

contents
1高火度釉に対する考え方と灰釉の調合方法 2うわぐすりの化学
3化学結合の性質 4珪酸塩ガラスの構造 5釉式座標による灰釉性状図
6含鉄灰釉・土石釉の性状図 7釉式計算の仕方
8釉式を使った釉調合の方法
9長石-CaO-BaO-MgO-ZnO系透明釉性状図
10長石-CaO-BaO-MgO-ZnO系+Fe2O3性状図
(1)長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト)}A/S=1/9 系鉄釉(Fe2O31・2%添加) 性状図
(2)長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト)}A/S=1/9 系鉄釉(Fe2O310%添加) 性状図
(3)長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト)}A/S=1/5 系鉄釉(Fe2O310%添加) 性状図

(10)長石-CaO-BaO-MgO-ZnO系+Fe2O3性状図

(1)長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト)}A/S=1/9 系鉄釉(Fe2O31・2%添加) 性状図

前回に続いて釉調合三角試験の鉄釉の性状図とそのまとめをします。(図表69 )のその性状図と(画像6)は、長石−石灰石系のNo1.2.4.7.11を中心に、左にNoZ15までの石灰亜鉛釉、右にNoM15までの石灰マグネシア 釉、合計25種類と石灰バリア釉10種類にFe2O3を1%添加還元焼成の性状図です。

↑(図表69) 長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O31%添加釉SK11RF性状図
↑(画像6)長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O31%添加釉SK11RF

RFで上の方の長石の多い乳濁した部分は灰色がかっていますが、このあたりが官窯系の青磁の組成で、まったりと乳濁し亀甲貫入も入っています。底辺部分の塩基性部分ではマット・結晶化することと、少しマグネシアが入ったところでいったん熔けて、さらに増えるとまた蕎麦結晶が析出し、さらに増えるとマット化します。亜鉛華では乳濁域が広がり、バリアが増えると良く解けていくのも分かります。 続いて(図表70 )(画像7)では、同じくNo1.2.4.7.11を中心に、左NoZ15までの石灰亜鉛釉、右NoM15までの石灰マグネシア 釉と石灰バリア釉にFe2O32%を添加した酸化焼成の性状図も示しましょう。

↑(図表70) 長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O32%添加釉SK9OF性状図
↑(画像7)長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O31%添加釉SK9OF

(2)長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト)} A/S=1/9 系鉄釉(Fe2O310%添加) 性状図

Fe2O39〜10%添加釉では、長石−石灰石系で、上の長石釉は還元焼成(RF)で黒い鉄砂釉(析出結晶は赤鉄鉱Fe2O3)、石灰が増すとまず結晶が赤みを帯び、次に黒天目から飴釉と変わります。右のマグネシア 系では酸性部分で鉄砂釉、下に下がると蕎麦(鉄を含むジオプサイトCaO・MgO・2SiO2)と、結晶析出が目立ちます。
鉛Pb2+、亜鉛Zn2+など、分極の大きい酸が入ると、うわぐすりの着色は長波長側(赤側)に移動します。鉄イオンによる着色は、いわゆる天目釉も黒くはなく、飴釉も赤みを帯びています。この試験でも、 亜鉛系ではその色も赤味〜黄味に移行しているのが分かります。鉄砂は石灰系より出やすく、マグネシア系よりも結晶が細かく、茶から柿釉のような赤みの鉄砂になります。左のバリア系では、上部でも鉄砂は少なく、黒天目も押えられ飴釉域が広がり、塩基性でバリアの多い所では飴色のマット釉(鉄を含むバリウム長石BaO・Al2O3・2SiO2)ができます。(図表71)(画像8)


↑(図表71) 長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O310%添加釉SK11RF性状図

↑(画像8)長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O39〜10%添加釉SK11RF

一方酸化焼成(OF)では、長石釉で赤茶のあばた釉、石灰が増すと黒天目から飴釉、右のマグネシア系では酸性部分で気泡痕油滴釉、下がると油滴や蕎麦、亜鉛系でも天目や気泡痕油滴の範囲が広がります。左のバリア系はやや色合が淡くなる程度で、還元焼成とあまり違いはありません。(図表72)(画像9)

↑(図表72) 長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O310%添加釉SK11RF性状図
↑(画像9)長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/9+Fe2O39〜10%添加釉SK11RF 一般化したのが下の図表です。(図表73)

陽イオン半径が小さい
陽イオン半径が大さい
Mg2+
Ba2+
釉中の結晶作り易い
釉中の結晶作り難い
貫入少い
貫入多い
Fe3+ フFe2+ の平衡 釉の酸性大→Fe3+→Fe2+→Fe0
酸化→還元→Fe3+→Fe2+→Fe0
飴→黒天目→鉄砂
飴→黒天目→鉄砂
鉄砂⇔黒天目⇔飴釉
長石釉←―→石灰釉
鉄砂⇔黒天目⇔蕎麦釉
長石釉⇔石灰マグネシア釉
鉄砂⇔飴釉⇔飴マット釉
長石釉←→石灰バリア釉

↑(図表73) 鉄釉における陽イオン・酸塩基性・酸化還元平衡による釉性状の変化

(3)長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト)} A/S=1/5 系鉄釉(Fe2O310%添加) 性状図

Al2O3/SiO2比1/5系のFe2O310%添加鉄釉についても長石−石灰石系・石灰マグネシア系・石灰亜鉛系の性状図とPhotoを見ていきましょう。Al2O3/SiO2比1/9系に比べて天目や飴釉の範囲が狭まり、鉄砂や蕎麦・亜鉛スピネルなどの結晶釉域が増えているのがわかります。亜鉛系でやや明るい黄茶の色釉ができているのは、スピネル結晶の色です。(図表74)(画像10)

↑(図表74) 長石-Ca-Mg-Zn系A/S=1/5+Fe2O310%添加釉SK11RF・SK9OF性状図
↑(画像10)長石-Ca-Mg-Zn・Ba系A/S=1/5+Fe2O39〜10%添加釉SK11RF・SK9OF

<主な参考文献・参考資料>
『鉄釉』(其の1〜4)沢村滋郎‥‥窯業協会誌48(1940)
『釉調合の基本』加藤悦三著‥‥窯技社
『酸と塩基』内藤奎爾・野村真三・他‥‥『電気化学』35(1967)
『ガラス化条件について』今村稔‥‥窯業協会誌67(1959)
『高火度釉基礎試験』釉研究会(1976)
1991年『広瀬典丈釉薬試験資料』
1974年度『京都府専修陶工訓練校専攻科釉薬試験資料』
1974年『川上金一釉薬試験資料』
『高火度釉基礎試験』編集発行-釉研究会書記局(1976) \1600
残部があります。ご注文は下記まで。
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