陶磁器釉薬(釉式を使った釉調合の方法)


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うわぐすりの調合(釉式を使った釉調合の方法)
1992年1月31日(パラントラ2巻8号発表)

contents
1高火度釉に対する考え方と灰釉の調合方法 2うわぐすりの化学
3化学結合の性質 4珪酸塩ガラスの構造 5釉式座標による灰釉性状図
6含鉄灰釉・土石釉の性状図 7釉式計算の仕方
8釉式を使った釉調合の方法
(1)長石一石灰石系、長石一陶石一石灰石系などの調合法
(2)石灰石と炭酸バリウム・マグネサイト・亜鉛華の置き換え方法
(3)長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト、亜鉛華)}系三角試験
9長石-CaO-BaO-MgO-ZnO系透明釉性状図
10長石-CaO-BaO-MgO-ZnO系+Fe2O3性状図

(八)釉式を使った釉調合の方法

(1)長石一石灰石系、長石一陶石一石灰石系などの調合法

うわぐすりの理解に化学的な方法が必要としても、釉計算は煩雑で出てくる調合量比はじっさいの仕事場で使うには細かすぎます。(図表45)で計算した磁器紬は、長石179.6、石灰石71.3、カオリン32.8、珪石106.6ですが、これをカオリンの32.8で割ると、だいたい長石5・石灰石2・カオリン1・珪石3という比に近くなります。逆に、この比のとおりに調合すれば

0.30KNa O
0.70CaO
0.45Al2O3 4.0SiO2

という釉式に近いうわぐすりが作れます。実用的な調合はその釉式を満たすできるだけ簡単な整数比を見つけておけぱいいのです。
合計を100にする必要もありません。

重量比 釉式
福島長石 : 石灰石
KNaO CaO Al2O3 SiO2
9 : 1
0.60 0.40 0.65

4.0

6 : 1
0.50 0.50 0.54

3.3

4 : 1
0.40 0.60 0.44

2.7

5 : 2
0.30 0.70 0.32

2.0

2 : 1
0.25 0.75 0.28

1.7

3 : 2
0.20 0.80 0.22

1.3

1 : 1
0.15 0.85 0.16

1.0

2 : 3
0.10 0.90 0.11

0.7

(図表50)福島長石-石灰石重量比と釉式の関係
重量比 釉式
福島長石 : 石灰石
KNaO CaO Al2O3 SiO2
100 : -
1.00 - 1.07

6.5

100 : 11
0.60 0.40 0.65

4.0

100 : 20
0.45 0.55 0.50

3.0

100 : 30
0.36 0.64 0.40

2.4

100 : 40
0.30 0.70 0.32

2.0

100 : 50
0.25 0.75 0.28

1.7

100 : 70
0.20 0.80 0.21

1.3

↑(図表51)福長100に対する石灰石量と釉式の関係
その場合基本となる長石と石灰石の比を与えておいて、他のマグネサイト・炭酸バリウム・亜鉛華などは、石灰石の置き換えと考えておけぱ重量比はもっと簡単に勘が付きます。
まず福島長石と石灰石の二成分ついて重量比と釉式上の塩基のモル数の対応表を作ります。(図表50)
福島長石を100で揃えた石灰石との重量比・釉式の関係表も便利です。(図表51)
重量比 モル比
福島長石 : カオリン Al2O3 : SiO2
2 : 3 1 : 3
2 : 1 1 : 4
5〜6 : 1 1 : 5
福島長石 1 1 : 6.5
福島長石 : 珪石  
10 : 1 1 : 7
5 : 1 1 : 8
3 : 1 1 : 9
7 : 3 1 : 10
3 : 2 1 : 12
1 : 1 1 : 15
(図表52)福長-カオリン-珪石系とA/S比の関係

(図表52)は福島長石-カオリンー珪石系の重量比と釉式上のAl2O3・SiO2 比の関係表です。

重量比 釉式
福島長石 : 天草陶石 : 石灰石
KNaO CaO Al2O3 SiO2
5 : 5 : 1
0.50 0.50 0.50

6.0

2 : 2 : 1
0.30 0.70 0.3

3.5

天草陶石 1 Al2O3 1: SiO2 10
↑(図表53)福長-天草-石灰石重量比と釉式の関係
重量比 釉式
1号磁器釉 : 福島長石 : 石灰石
KNaO CaO Al2O3 SiO2
1 : 1 : -
0.60 0.40 0.74

5.5

2 : 1 : -
0.45 0.55 0.65

5.2

4 : 1 : -
0.45 0.55 0.65

5.2

1 : - : -
0.30 0.70 0.49

4.8

40 : - : 1
0.25 0.75 0.44

4.3

10 : - : 1
0.20 0.80 0.34

3.3

5 : - : 1
0.15 0.85 0.27

2.6

↑(図表54)1号磁器釉-福長-天草-石灰石重量比と釉式の関係
それよりは複雑ですが、福島長石-天草陶石-石灰石系、磁器釉-福島長石-石灰石系の関係表も示しましょう。(図表53・54)
計算に使った磁器釉は、市販の一号磁器釉の分析例(図表55)をもとにし、塩基に含まれる5%のMg0は無視またはCa0に含ませました。
Na2O K2O
1号磁器釉
モル
2.36
0.04
2.19
0.02

MgO

CaO

Al2O3

SiO2

0.48
0.01
8.83
0.157
11.53
0.003
66.1
1.099
↑(図表55)
1号磁器釉の原料分析とモル数

  
(2)石灰石と炭酸バリウム・マグネサイト・亜鉛華の置き換え方法

MgO CaO

BaO

ZnO

炭酸バリウム
モル


tr.
-
0.24
-

マグネサイト
モル

0.05
-
0.20
-
0.04
-
55.08
0.982
亜鉛華
モル
0.54
-
0.46
-
0.25
-
0.39
-
(図表56)塩基酸化物の原料分析とモル数
石灰石 炭酸バリウム マグネサイト 亜鉛華
100
195 86 82
(図表57)石灰石100に対する塩基原料の置換値
釉式のCaO を他の塩基で置き換えるにはどうしたらいいでしょうか?
100 の石灰石から0.982 のCaO が得られます。同じ0.982 のBaO を得るには、どれだけの炭酸バリウムを必要とするでしょう。
(図表56) から、100 の炭酸バリウムには0.504 のBaO が含まれます。それで、100:0.504 =χ:0.982 つまり、χ=(100×0.982)÷0.504 =194.8
同じようにマグネサイト・亜鉛華も計算したのが(図表57) です。 亜鉛華はアルカリ土ではなく遷移金属の仲間ですが、無色でうわぐすりの熔けを良くするため、塩基成分としてCaO、 BaOの置き換えに使われてきました。しかし、一定の条件下ではPbO 同様4配位の網目形成イオンとして働く可能性→があってそのことが釉に独特に働きます。  

(3)長石-{石灰石-(炭酸バリウム・マグネサイト・亜鉛華)}系三角試験

うわぐすりの調合は、長石と石灰分の置換試験を縦軸とすると、一方横軸はその石灰分を他の塩基成分で置き換えることだとも考えられます。
縦軸上の長石は、Al2O3・SiO2 を多く含み強酸性、塩基成分の増加とともに、うわぐすりは塩基性になります。塩基成分つまり修飾イオンの増加はガラスの網目構造を切って釉の粘りを小さくし、気泡を抜きガラス中に結晶を作りやすくするなどのことを起こします。
他方、Ca2+をそれより大きなイオンでかつ弱い酸であるBa2+、逆にCa2+より小さく強い酸Mg2+で置き換えた場合、また分極性が大きく柔らかい酸ZN2+による置き換えはどうかなど、塩基成分の三角座標を用いて系統だった試験をわりあい簡単に行えるのが次の方法です。
まず、釉式上の塩基が0.85KNaO・0.15CaOを満たす、福島長石200、石灰石6 の釉No1と、0.25KNaO・0.75CaOを満たす、福島長石60、 石灰石30の釉No11を調合します。この二つのうわぐすりは、それぞれの合計量 206と90で、塩基成分の合計モルがほぼ同じに調整してあります。
次に、No11釉のCaO のうち0.60をBaO、MgO、ZnOで置き換えた、NoB15・NoM15・NoZ15の基礎釉を作ります。ただし、A/S比が1/9には珪石がA/S比1/5にはカオリンがそれぞれ加えてあります。(図表58・59) 

No. 福島長石 石灰石

炭酸バリウム

マグネサイト

亜鉛華

珪石

合計
1 200 6 - - - 65 271
11 60 30 - -. - 20 110
B15 60 6 47 - - 20 133
M15 60 6 - 21 - 20 107
Z15 60 6 - - 20 20 106
(図表58) 長石-(石灰石- 他塩基酸化物) 系三角試験(A/S=1/9) の基礎釉
No. 福島長石 石灰石

炭酸バリウム

マグネサイト

亜鉛華

カオリン

合計
1 200 6 - - - 33 239
11 60 30 - -. - 10 100
B15 60 6 47 - - 10 123
M15 60 6 - 21 - 10 97
Z15 60 6 - - 20 10 96
(図表59) 長石-(石灰石- 他塩基酸化物) 系三角試験(A/S=1/5) の基礎釉 

No1、No11・No15の三つの基礎釉を組み合わせて(図表58・59)の塩基三角座標を満たすような15種類の釉薬を調合試験します。(図表60)
調合方法は、A/S=1/9 の場合、No1・No11・No15の各釉の合計量No1が271、No11が110 などを基礎量として、そのそれぞれ何%という具合に計算します。
たとえば、NoM5の釉は、No1-50%・No11-25%・NoM15-25%で、その比は2:1:1 (271 ×2 )+(110 ×1 )+(107 ×1 )=542 +110 +107
それで、No1釉542 、No11釉110 、NoM15釉107 を合わせれば、NoM5.釉、つまり、0.55KNaO・0.30CaO・0.15MgO}0.60Al2O3・5.5SiO2という釉式の釉ができます。 高火度釉で用いる長石と塩基酸化物・粘土・珪石など、基本的な原料の性質と使い方を知るのにこの試験はとても有効です。

各釉の調合比率

釉 式 A/S=1/9 A/S=1/5
No. No1長石釉 No11石灰釉

No15釉

KNaO CaO RO Al2O3 SiO2 Al2O3 SiO2
1 100% -% -% 0.85 0.15 - 0.90 8.0 1.20 6.0
2 75 25 - 0.70 0.30 - 0.75 7.0 1.00 5.0
3 75 - 25 0.70 0.15 0.15 0.75 7.0 1.00 5.0
4 50 50 - 0.55 0.45 - 0.60 5.5 0.80 4.0
5 50 25 25 0.55 0.30 0.15 0.60 5.5 0.80 4.0
6 50 - 50 0.55 0.15 0.30 0.60 5.5 0.80 4.0
7 25 75 - 0.40 0.60 - 0.45 4.0 0.60 3.0
8 25 50 25 0.40 0.45 0.15 0.45 4.0 0.60 3.0
9 25 25 50 0.40 0.30 0.30 0.45 4.0 0.60 3.0
10 25 - 75 0.40 0.15 0.45 0.45 4.0 0.60 3.0
11 - 100 - 0.25 0.75 - 0.30 2.5 0.38 2.0
12 - 75 25 0.25 0.60 0.15 0.30 2.5 0.38 2.0
13 - 50 50 0.25 0.45 0.30 0.30 2.5 0.38 2.0
14 - 25 75 0.25 0.30 0.45 0.30 2.5 0.38 2.0
15 - - 100 0.25 0.15 0.60 0.30 2.5 0.38 2.0
↑(図表60) 長石-(石灰石- 他塩基酸化物) 系三角試験の調合と釉式 

←(図表61) 長石-{石灰石-(炭酸バリウム、マグネサイト、亜鉛華)}系三角試験の座標  

<主な参考文献>
『鉄釉』(其の1〜4)沢村滋郎‥‥窯業協会誌48(1940)
『釉調合の基本』加藤悦三著‥‥窯技社
『酸と塩基』内藤奎爾・野村真三・他‥‥『電気化学』35(1967)
『ガラス化条件について』今村稔‥‥窯業協会誌67(1959)
『高火度釉基礎試験』釉研究会(1976)
『高火度釉基礎試験』編集発行-釉研究会書記局(1976) \1600
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