陶磁器うわぐすり(珪酸塩ガラスの構造)


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うわぐすりの調合(珪酸塩ガラスの構造)
1991年3月28日(パラントラ2巻4号)

(四)珪酸塩ガラスの構造

(1)珪酸塩ガラスの構造

うわぐすりの主成分である珪酸SiO2 は、実際の構造ではSiO4の四面体がOを橋わたしにして不規則に並べられた三次元の網目でつながっています。つまり、SiO4の四つのOは、結合の時のSiが作る四頂点の軌道を囲んでSiO4四面体を作りながら、Oは他のもう一つのSiとも結合して無限の網目構造を作っていくのです。(図表17,18 )こうして、SiをつないでいくOを<架橋酸素>と呼びます。ガラスの成分の中にNa+、Ca2+などの陽イオンが入ると、OはSiとの結合を1-2個切って、Na+、Ca2+などとイオン的につり合います。こういう酸素は<非架橋酸素>と呼ばれます。(図表19)


図表17. SiO4四面体模型
←図表18.


↑図表19.ガラスの二次元表示
珪酸塩ガラスの構造
ガラスの網目構造を作る共有結合性の強 い Si4+
を<網目形成イオン>、イオン結合性の強い
Na+、Ca2+などを<網目修飾イオン>といいます。(Si−O結合は、共有結合性とイオン結合性が半々くらいとされています。
Siをイオンと考え、Si4+O2ーでけっきょくSiO44ー
というまとまりで塩基を作っていると考えることもできます。) Al3+、Pb2+・Zn2+などは、修飾イオンとしての作用以外に、Si−O結合の間に入って網目構造に加わることがあるので、<中間イオン>といわれます。(Pb2+・Zn2+については別の機会にふれます。) <修飾イオン>の増加は、Si−O結合の一部を切ってガラスを開放的にしますから、うわぐすりの融点や粘性を下げたり、さらには結晶化をもたらしたりします。
単純なモデルでは<修飾イオン>は<架橋酸素>:<非架橋酸素>=1:1のときまでしか加えられません。このときSiO4 が鎖状の構造となって立体網目を作れなくなるからです。
これは、RO:SiO2 =1:1、つまりSi=1、O=3、O/Si=3のときにできる構造ですが、実際の高火度釉にはAl2O3 が含まれていますし、うわぐすりは素地とも反応しますから、もう少し複雑です。
Al3+は4配位で<網目形成イオン>Al45ー となります。このときOのー電荷が一つ余るので間に陽イオンを引きつけて、うわぐすりにAl3+が入るときには<修飾イオン>は、R:Si=1:1よりも多く入ることができます。(Zachariasen,Stevels などによる)

(2)釉式

陶磁器のうわぐすりでは、その塩基性酸化物・中性酸化物・酸性酸化物成分という酸化物の形で、塩基性・中性・酸性に分けて現す、釉式という独特の形にすることが行なわれています。(図表20)
R2O
R O
хAl2O3 ・ уSiO2
塩基性酸化物   中性酸化物 酸性酸化物

図表20. 釉式
高火度釉では、塩基性酸化物(R2O・RO)は、アルカリとアルカリ土、中性酸化物はAl2O3 、酸性酸化物はSiO2 がほとんどなので、他の成分は添加物として扱い、釉式に入れないことも多いのです。 釉式上の量はモルという分子の数の単位で表わし、R2O・ROの合計はいつでも1モルになるように式を合わせます。この操作でR2O・ROを構成する成分はいつもモル百分比で示され、R2O・ROを基準にしてAl2O3・SiO2 のモル量比を量ることができます。
分子の数モルは、さまざまな分子がそれぞれに持っている質量(分子量、式量)で重量を割った値であると考えます。化学反応は、原子・イオン・分子の単位で行なわれますから、調合を重量比で表わすよりも各分子の数を示す釉式の方がうわぐすりを化学的に表わすことができます。 釉式は必ずしも現実のうわぐすりの構造をよく捉えているとはいえませんが、酸化物表示のR2 O・ROが修飾イオン、Al2O3 が中間イオン、SiO2 が網目形成イオンを示すと考えればそれなりに有効です。 釉式によってうわぐすりは、1. 塩基成分の組成、2. Al2O3・SiO2 の量比という二つの要素で捉えられるようになります。(加藤悦三「釉調合の基本」)

(3)陽イオン・酸素イオン間静電引力(陽イオンの分極能)

うわぐすりの構造や性質を把握するには、ガラスの網目構造をもとにした考え方だけではなく、共有結合性フイオン結合性の度合い(結合の強さ)、酸性フ塩基性という尺度で考えることもできます。
釉式上、塩基性酸化物のR2 O・ROの増加はうわぐすりの塩基度を高め、逆にSiO2やAl2O3 の増加はうわぐすりを酸性にします。
では同じR2 O・ROの中で、Na2O・K2O・MgO・CaO・BaOなど、あるいはSiO2に変わるB2O3・P2O5などはどうでしょうか。
こうしたことを数字的な尺度で示す工夫の一つに<陽イオン、酸素イオン間の静電引力>という方法があります。

酸素イオン電荷×陽イオン電荷
──────────────
(酸素・陽イオン間距離)
2
2Z
──
a2

〔2は酸素イオンの電荷、Zは陽イオンの電荷、aは酸素と陽イオン間距離、aは陽イオンの酸素に対する分極作用が小さいときには酸素イオンの半径と陽イオンの半径の和(rO+rM)に近いですが、陽イオンの分極作用が大きくなるほど(rO+rM)>aとなります。
これは、イオン半径と電荷によって結合の共有性フイオン性を数値化する試みで、数値が大きいほど分極能が大きく共有結合性つまり酸性で、逆に数値が小さいほど酸の強さが小さい(塩基性)ということになります。 これらの捉え方によって、私達は釉薬の色や光沢・乳濁・結晶化・貫入・剥離などについも、そうとうの見通しが立てられるようになるはずです。

陽イオン + Na+ Li+ Ba2+ Pb2+ Sr2+ Ca2+ Zn2+ Mg2+ Zr4+ Al3+ Sn4+ Ti4+ Si4+ B3+ P5+
2Z/a2 0.27 0.35 0.45 0.51 0.53 0.58 0.69 0.91 0.95 1.55 1.69 1.89 2.08 3.14 3.22 4.3

↑図表21.陽イオン・酸素イオン間静電引力  

<主な参考文献>
『わかりやすい窯業科学』寺田召二著‥‥雑誌『窯技』20〜22号(1966 )
『ガラス化条件について』今村稔‥‥『窯業協会誌』67集 (1959)
『釉調合の基本』加藤悦三著‥‥窯技社
『熔融スラグの酸と塩基について』後藤和弘、松下幸雄‥‥『電気化学』35
『ガラス工学』成瀬省著‥‥共立出版 (1967)
『高火度釉基礎試験』編集発行-釉研究会書記局(1976) \1600
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