陶磁器釉薬(うわぐすりの化学)



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釉薬調合(うわぐすりの化学)
1990年9月28日(パラントラ2巻2号発表)

contents
1高火度釉に対する考え方と灰釉の調合方法
2うわぐすりの化学
|長石と媒熔剤の化学組成|元素の周期表とその効用|うわぐすりへの応用|
3化学結合の性質 4珪酸塩ガラスの構造
5釉式座標による灰釉性状図 6含鉄灰釉・土石釉の性状図
7釉式計算の仕方 8釉式を使った釉調合の方法 9長石-CaO-BaO-MgO-ZnO系透明釉性状図
10長石-CaO-BaO-MgO-ZnO系+Fe2O3性状図

(二)うわぐすりの化学 

(1)長石と媒熔剤の化学組成

高火度釉の基本原料、長石の分子式は、正長石(K2 O・Al2O3・6SiO2)ソー長石(Na2 O・Al2O3・6SiO2)というように、アルカリ(K2 O・Na2 O)・アルミナ(Al2O3 )・珪酸(SiO2 )を含む、珪酸塩化合物です。だいたい1300℃前後で熔けてガラス化します。その長石に木灰や石灰石などのを混ぜれば、それらに含まれているアルカリ・アルカリ土(CaO、MgO)などが媒熔剤として作用して、うわぐすりの熔融温度を下げるのです。こうしたことは、化学的な方法を用いることによって理論的に考えていくことができます。

(2)元素の周期表とその効用

元素の周期表は、その元素の性質や他の元素との結合などの関係を理解するのにとても便利です。(図表8)私達がさしあたり必要とするのは、アルカリ金属・アルカリ土類金属・dブロック遷移金属・アルミニウム(Al)・珪素(Si)・酸素(O)などですが、うわぐすりではそれらはほとんどが酸化物として扱われてきました。しかしそれを考える前に、とりあえず元素の周期表について最小限知っておくべきことを整理しましょう。

1.原子


(a)原子の電子軌道
1 1個のs軌道(1s)
2 1個のs軌道(2s)+3個のp軌道(2p=2px,2py,2pz)


図表5-2
原始の電子軌道と形状

 

3 1個のs軌道(3s)+3個のp軌道(3p)+5個のd軌道(3d)
図表5-1 原始の電子軌道
●<原子>は、その中心にあって正に帯電している<原子核>と、その回りにあって負に帯電している<電子>からなっている。(図表5)
●<原子核>の正電荷の大きさは、元素の周期表を水素(H)1から一つずつ増加する『原子番号』と呼ばれる数値に等しく、<原子>が電気的に中性である時は、その<電子>の数も『原子番号』に等しい。
●<原子核>と<電子>の総電荷が釣り合わず、正または負の電荷を帯びた<原子>のことを<イオン>と呼ぶ。
●原子内の電子は、『量 子数』というものによって決定される一定のエネルギー状態に配分され、エネルギー凖位 の低い順に満たされていく。(図表5、6)

周期律に現れる、元素の性質が周期的に似ているのは、原子番号順に並べられた元素の、最外殻電子の配置が似ていることによる。
アルカリ族・アルカリ土族の元素の殻外電子配置を見れば、アルカリ族はすべて最外殻のs軌道に1個の電子、アルカリ土族では2個の電子を持っている。このように、原子の化学作用に直接かかわる最外殻電子が元素の性質を大きく規定する。






←図表6
元素の電子殻および副殻のエネルギー
順位 表
 

周期 アルカリ 電子配置
K L M N O P Q
1s 2s 2p 3s 3p 3d 4s 4p 4d 4f 5s 5p 5d 5f 6s 6p 6d 7s
2 Li 2 1
3 Na 2 2 6 1
4 k 2 2 6 2 6 1
5 Rb 2 2 6 2 6 10 2 6 1

6

Cs

2

2 6 2 6 10 2 6 10 2 6 1
周期 アルカリ土 電子配置
K L M N O P Q
1s 2s 2p 3s 3p 3d 4s 4p 4d 4f 5s 5p 5d 5f 6s 6p 6d 7s
2 Be 2 2
3 Mg 2 2 6 2
4 Ca 2 2 6 2 6 2
5 Sr 2 2 6 2 6 10 2 6 2
6 Ba 2 2 6 2 6 10 2 6 10 2 6 2
←図表7
アルカリ族、
アルカリ土族の
元素の核外電子配置表 

●元素を水素(H)から原子番号順に並べていくと、化学・物理的によく似た性質の元素が周期的に現われる。(周期律)(図表7・8)

●元素の周期表中、縦に並べられた、化学的・物理的に類似の集団を、『周期表の族』と呼び、横の列は各周期を表わしている。

●同じ族に属する元素を同族元素と呼び、それらは化学的・物理的性質が似ているだけではなく、その中で原子番号が増えることに伴う変化が規則性を持っている。

●周期表の横の列(周期)の中では、元素は物理・化学的性質を規則的に変える。アルカリ・アルカリ土・遷移金属は陽イオンとなり、その単体は金属の性質を示す。アルミニウム・珪素・燐に向かうほど、陽イオンとはなりにくく、非金属的になる。周期表では一般に、左下ほど金属性が強く、右上ほど非金属性が強くなる。

(3)うわぐすりへの応用

うわぐすりを扱う時、原料中の酸化リチウムLi2O→酸化ナトリウムNa2O→酸化カリウムK2O、マグネシアMgO→酸化カルシウムCaO→酸化バリウムBaOの変化に規則性があることはすぐに分かります。
また、うわぐすりを着色する原料のほとんどに、遷移金属、特にdブロック4Nの元素が含まれていることにも気付くでしょう。
基本原料に含まれるアルミニウムAl・珪素Siや、ときどき使うほう素B・燐Pが、金属と非金属の境で、陽イオンとなりにくいといった共通 の性質を持つことも、周期表の位置から捉えることができそうです。
図表8 元素の周期率表
周期
反応活性
金属
遷移元素 主として非金属
s軌道 d軌道 p軌道(H,Heを除く)
上の数字--原子番号 ・A 0
1
K
1
H
A 。A 「A 」A 、A 1
H
2
He
2
L
3
Li
4
Be
5
B
6
C
7
N
8
O
9
F
10
Ne
3
M
11
Na
12
Mg
。B 「B 」B 、B ・B B 13
Al
14
Si
15
P
16
S
17
Cl
18
Ar
4
N
19
K
20
Ca
21
Sc
22
Ti
23
V
24
Cr
25
Mn
26
Fe
27
Co
28
Ni
29
Cu
30
Zn
31
Ga
32
Ge
33
As
34
Se
35
Br
36
Kr
5
O
37
Rb
38
Sr
39
Y
40
Zr
41
Nb
42
Mo
43
Tc
44
Ru
45
Rh
46
Pd
47
Ag
48
Cd
49
In
50
Sn
51
Sb
52
Te
53
I
54
Xe
6
P
55
Cs
56
Ba
57
La
72
Hf
73
Ta
74
W
75
Re
76
Os
77
Ir
78
Pt
79
Au
80
Hg
81
Tl
82
Pb
83
Bi
84
Po
85
At
86
Rn
7
Q
87
Fr
88
Ra
89
Ac
重金属 Al,Ge,Sb,Poより左
下は低融点重金属
ハロ
ゲン

ガス
アルカリ金属

アルカリ土類金属

希土類金属 内遷移金属(f軌道)

ランタノイド系
58
Ce
59
Pr
60
Nd
61
Pm
62
Sm
63
Eu
64
Gd
65
Tb
66
Dy
67
Ho
68
Er
69
Tm
70
Yb
71
Lu

ランタノイド系
90
Th
91
Pa
92
U
93
Np
94
Pu
95
Am
96
Cm
97
Bk
98
Cf
99
Es
100
Fm
101
Md
102
No
103
Lr

<主な参考文献>
『物質の化学構造』アガフォーシン著大竹三郎訳‥‥東京図書
『一般化学』竹林松二著‥‥学術図書出版
図表8(『化学の事典』岩波書店より)

『高火度釉基礎試験』編集発行-釉研究会書記局(1976) \1600
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