陶磁器釉薬(釉式計算の仕方)



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うわぐすりの調合(釉式計算の仕方)
1991年10月21日(パラントラ2巻7号

原料 重量比
天草陶石 30
福島長石 30
石灰石 15
珪石 15
↑(図表40)磁器釉例
うわぐすりの計算の仕方についてかんたんに説明しましょう。
(図表40)の磁器釉は、陶石・長石・石灰石・珪石を2:2:1:1の比で合わせる単純なものですが、染付磁器釉として十分利用できます。これを(図表41)の原料分析値を使って計算します。  表を見ると、たとえば天草陶石100 にはK2Oが2.88含まれています。この2.88にK2Oが幾モル含まれているかを見るには、K2O 2.88をその分子量94.2で割ればいいのです。あらかじめ、各原料の重量比100 に対して含まれる分子数を求めたのが(図表41)中のモルの値です。モル計算に用いた成分酸化物の分子量は(図表42)のものです。

Na2O K2O

MgO

CaO

Al2O3

SiO2

天草陶石
モル

0.16 2.88 0.28
-
0.17
-
1.458
0.143
78.94
1.314
0.034

福島長石
モル

3.48
10.42
tr.
-
0.24
-
18.56
0.182
66.71
1.111
0.167

石灰石
モル

0.05
-
0.20
-
0.04
-
55.08
0.982
0.20
-
0.40
-
珪石
モル
0.54
-
0.46
-
0.25
-
0.39
-
37.27
0.366
45.82
0.764

 

 

 

←(図表41)
原料分析とモル数

酸化物 Li2O Na2O K2O MgO CaO SrO BaO ZnO PbO

B2O3

Al2O3

SiO2

P2O5
分子量 29.2 62.0 94.2 40.3 56.1 103.6 153.4 81.4 223.2 69.6 101.9 60.1 141.9
(図表42) 成分酸化物の分子量

(図表40) の磁器釉の原料で、微量成分を無視すると天草陶石、福島長石についてはアルカリとAl2O3・SiO2、石灰石ではCaO、珪石ではSiO2だけ考えればよくなります。まず天草100 中のKNaO(K2O,Na2Oはアルカリとして合計してある)0.034 のうち必要な比は30なので、0.3 倍すると0.0010、同様にしてすべての成分の分子数(モル)を求めて合計します。(図表43)
釉式は塩基の合計を1.00にそろえる決まりなので、塩基の合計値0.246 ですべての成分を割っていけば釉式は求められます。ガラスなどで使われている成分酸化物のモル%比も便利なものです。
 
R2O RO
KNaO CaO
R2O3
Al2O3
RO2
SiO2
天草陶石 30
福島長石 30
石灰石 15
珪 石 15
0.010 -
0.050 -
- 0.147
- -
0.043
0.055
-
-
0.394
0.333
-
0.246
合計90
0.060 0.147
0.098
0.973
 
塩基合計 0.207
   
釉式
0.29 0.71
0.47
4.70
モル%比
5% 12%
8%
76%

 

 

←(図表43) 釉式計算表

エクセルなどの表計算のワ−クシ−トに表を作って今説明した順番で表中に計算式を入れてグラフ化した例を示します。(図表44)の左が(図表40)の磁器釉の塩基成分グラフ、右は成分モル%比グラフです。(但し、計算は微量成分も加えてあるため少しだけ上の値とは異なります。





←(図表44)
前記磁器釉の塩基モル%グラフと成分モル%グラフ

(2)釉式から原料の重量調合比を求める

与えられた釉式から原料の重量調合比を計算することは実際にはかなり大まかな方法でできますし、そのほうが実践的にも有効です。しかし、ここではとりあえず正規のものを説明しましょう。

0.30KNa O
0.70CaO
0.45Al2O3 4.0SiO2
この磁器釉について、今度は、福島長石、石灰石、カオリン、珪石だてで調合します。
まず横並べに釉式を書いて、その下縦に成分種類の多い 長石などからの順に並べます。(図表45)
原料\成分 KNaO CaO Al2O3 SiO2
釉式
0.30     0.70    0.45     4.00   
福島長石 179.6
0.30       0.33     2.00   

石灰石  71.3
-     0.70    0.12     2.00   
  0.70       

カオリン 32.8
  -     0.12     2.00   
    0.12     0.25   

珪 石  106.6
    -     1.75   
      1.75   
 
      -    








(図表45)
長石100 には0.167 モルのKNaOが含まれますから、0.30モルのKNaOを長石でまかなうには次の方程式によります。
0.167:100 =0.30:χ,χ=0.30/0.167 ×100 =179.6
この179.6 の長石には、Al2O3 が0.182 ×179.6 /100 =0.33、
SiO2 が1.111 ×179.6 /100 =2.0含まれています。それで、179.6 の長石でまかなわれる成分を(図表45)の長石の欄に書き並べ、その分を釉式中から差し引きます。同じようにして、石灰石71.3、カオリン32.8、珪石106.6 の値が求められます。

(3)釉組成グラフ

今度は、いくつかのうわぐすりを比較するグラフを作って見ましょう。(図表44)の円グラフも釉組成の視覚化としては有効ですが、たくさん比較するには不便です。そこで、今度は積み重ねグラフを使って見ます。 長石−土灰−藁灰系の調合8種類のうわぐすり(図表46)を釉式の値によってグラフにしたものが(図表47)です。

Na2O K2O

CaO

MgO

Al2O3

SiO2

長石 土灰 藁灰
長石 0.33 0.60 0.04 0.03 0.94 5.31 100    
2 0.18 0.33 0.09 0.41. 0.52 2.95 80 20  
3 0.11 0.20 0.58 0.11 0.32 1.84 60 40  
4 0.07 0.12 0.68 0.13 0.21 1.19 40 60  
5 0.04 0.07 0.75 0.14 0.13 0.77 20 80  
土灰 0.02 0.04 0.80 0.14 0.08 0.47   100  
7 0.11 0.29 0.48 0.12 0.31 2.88 40 20 40
8 0.02 0.09 0.74 0.14 0.07 1.07   60 40











(図表46)長石−土灰−藁灰系の調合8種類 

(図表47)長石−土灰−藁灰系の釉式グラフ

(図表48)長石−土灰−藁灰系のモル%グラフ

(図表49)諸原料のモル%グラフ
釉式では塩基がいつも1に統一されるので、塩基を基準にしてAl2O3・SiO2量を見るのにこのグラフは適しています。同じものをモル%グラフにしたのが(図表48)です。釉式グラフでは、Al2O3・SiO2が少なく成分が見にくい釉もこのグラフでは見やすくなります。Al2O3・SiO2の量に影響されないこのグラフを利用すれば、陶長石や灰類・含鉄土石など、さまざまな原料の鉄など遷移金属を除く成分を並べて比較できるでしょう。(図 表49)左端は(図表40)の磁器釉です。

<主な参考文献>
『釉調合の基本』加藤悦三著‥‥窯技社
『窯業計算の仕方』高嶋広夫、河本末吉‥‥窯技社
『高火度釉基礎試験』編集発行-釉研究会書記局(1976) \1600
残部があります。ご注文は下記まで。
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