釉裏の華 広瀬典丈・広瀬さちよ作品集2





『色磁器 釉裏の華 広瀬典丈・広瀬さちよ作品集』page2
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広瀬典丈・広瀬さちよ作品集 釉裏の華 ≫page1 ≫page3 ≫page4  展示会の記録

写真11左
粉青磁長頚瓶
(11×26cm)1986年
Vase with a long neck covered with the pale green brush washer ceradon glaze.

写真11右
米色青磁長頚瓶

(10.5×27cm)1986年
Vase with a long neck covered with the light brownish ceradon glaze.. 

写真13
褐釉金彩大鉢
(48×18cm)1987年
Le
af shaped bowl glaze and the gold.

 

写真14
染付流水文変形鉢
(43.5×38cm×12cm)1986年
Bowl with crooked rim with design of a stream painted in the underglaze blu
e.

写真15
釉裏五彩金彩花模様扁瓶
(17×13.5×28cm)1987年
Pilgrim bottle with flower design painted in the underglaze and the gold.


写真16釉裏五彩花鳥図梅瓶
(17.5×32.2cm)1989年
Mei-p'ing vase with design of flowers and birds painted in the underglaze.

写真17
染付金銀彩群鶴図角皿

(20×5.5cm)
米色釉裏彩金彩花蝶図長頚瓶
(9.5×22cm)1988年
Square dish with design of flock of cranes painted in the underglaze blue, and the gold and the silver.
Vase with long neck with design of flower and butterfly painted in the underglaze, and the light brownish celadon glaze and the gold.

写真18
褐釉釉裏彩銀彩笹図変形鉢
(20×8cm)
褐釉釉裏彩銀彩流水文瓶
(9.3×21.6cm)1989年
Bowl with crooked rim with design of bamboo grass painted in the underglaze and the brown glaze, and the silver.
Vase with design of a stream in the underglaze and the brown glaze, and the silver.


写真19

釉裏彩金彩紅白梅図壷
(17.5×32.2cm)1990年
Vase with painted design of Japanese apricot in the underglaz and the gold.

写真20
釉裏彩金彩二十日大根図角皿
(37.5×7.5cm)1991年
Square dish with painted design of radishes in the underglaze and the gold.

写真21
染付葉脈文大鉢
(40×14cm)1992年
Leaf shaped bowl with design of veins painted in the underglaze blue.

写真22
染付・釉裏彩食器類 1
993年
Tableware with painted in the underglaze.

写真23
釉裏彩花模様蓋付壷
(27.5×34cm)1993年
Jar with flower design painted in the underglaz and the gold.

 

写真24
釉裏彩鉄線図八角皿
(36×8cm)1993年 
Octagonal dish with clematis design painted in the underglaze.

青磁

青磁は、今から四千年ほど前中国の灰釉に始まりました。不完全燃焼状態で焼かれたうわぐすりは、含まれる鉄分が少なければ淡青から緑、オリーブ、枇杷色などに着色します。
中国ではさまざまな種類の青磁を、焼いた窯場や色で区別します。中でも天青(てんせい)、粉青(ふんせい)、米色(べいしょく)など、王宮御用達の官窯(かんよう)系青磁は素晴らしい出来映えです。
日本で砧手(きぬたで)、天竜寺手(てんりゅうじで)、七官手(しちかんで)と呼ぶ青磁はいずれも龍泉窯(りゅうせんよう)で焼かれた輸出品で、その順に時代が下がります。
青磁ではこのほかに朝鮮で焼かれた高麗青磁(こうらいせいじ)が有名で、その澄んだ青緑は秘色(ひしょく)の名で知られています。

金彩・銀彩について

金彩銀彩は、一度高い温度で焼き上げた上に、750度くらいで、金粉や銀粉を焼き付けます。定着用には低温用のうわぐすりを混ぜて使います。箔を付着させる方法もあります。
銀彩は、銀が錆びるために、だんだん曇って光沢のない暗い色になります。そんな時、銀磨きなどで磨けば、もとの光沢に戻りますが、銀層は薄くなります。銀のかわりに白金を用いれば鏡のような光沢のものになり銀とはまったく質感が違います。上品で明るい白は銀独特のものです。
金彩銀彩は、電子レンジで磁器の素地との間にめくれを起こしますますので、電子レンジにかけることはできません。

流水文(りゅうすいもん)

流水文は日本の伝統的な意匠の一つですが、私たちのものはさちよが大きくアレンジしたオリジナルなものです。
これはオブジェに影をあててしま模様を動かすデザイン演習がヒントでした。
器胎の動きと絡みながら変化する単純な繰り返しのリズム感に、ダミの濃淡のリズムも加わり、描き終わった時、すっきりとした達成感が残ります。
新しいものながらなぜか古くからある意匠のように馴染み、さまざまな種類・形の器に描いて多くの方に受け入れていただいています。

イズニーク模様

イズニーク模様は古いトルコのモザイクタイルの意匠で、私は好んで使っています。(写真5の左や15、23)
チューリップやカーネーションなどこの地原産の植物や唐草、アラベスクと、多彩な意匠と華やかな彩色を釉裏彩に置き換えてみました。

明治輸出工芸図案

明治輸出工芸図案は、明治期の日本が生み出した輸出工芸品の意匠で、日本的な画題と西洋リアリズムを融合した精緻で技巧的な世界です。
写真16は「起立工商会社」が出した丸文下図から取ったもので、家紋や鍋島磁器意匠ともつながる日本風の洗練が魅力です。
イズニーク模様のレース模様のような華やかさと明治輸出工芸図案の写実を丸文に圧縮する執念、方向性は違いますが器胎に絵を付けることの巾として共に惹かれ、絵にしました。


掛け分けと片身替わり1

掛け分けは素地の部分を切ってうわぐすりを掛け分ける手法です。
写真の花瓶は米色青磁を部分掛けしています。画面を切ることで窓ができ、彩色に変化が生まれます。
片身替わりはある部分で切ってそこを境にがらりと違う手法を用いる日本の伝統的意匠です。
角皿は群鶴の上下を吹き墨の藍と素地の白で区分して描き分けています。


掛け分けと片身替わり2

この二つは褐釉を部分掛けしています。

ダミと金彩による片身替わり

この壺ははダミ金彩で紅白梅を描き分けています。
紅白梅図群鶴図などは俵屋宗達以来、淋派によってずっと描きつがれてきました。

美のかたち 〈広瀬さちよ〉

染付と色絵磁器での出発であるが、よりナウなものを追求しつつ、野菜や雑草をモチーフにしたユニークな下絵金銀彩をほどこした〈金・銀・釉裏彩〉の技法を確立して脚光を浴びている。
それは自然体できた結果だと謙そんするが、作品の前に立つと心の安らぎすら感じるから不思議である。
成型は夫君である典丈(みちたけ)氏、下絵は作者と完全分業だが、全く事前協議のないまま制作された生地に自由闊達(かったつ)な下絵付がなされているから面白い。それが独特の滋味をかもし出しているから楽しい。さちよ・典丈氏とも昭和二十五年生まれ。これからの二人三脚による精進ぶりと新しい陶芸美の世界への挑戦に期待したい。

美術評論家 大野雑草子
(1992年8月24日産経新聞「美のかたち」掲載)

ダミの手法と葉脈文様

ダミは素焼きの吸水性を利用して、ダミ筆と呼ばれる太い筆にたっぷりの呉須液(藍絵の具)を含ませて描く伝統的な彩色技法です。ダミの技法は筆跡を隠すために考案されましたが、絵の具を素地に吸わせる順序にリズム感のある濃淡ができ、独特の効果をかもします。
葉脈文鉢は、蓮の葉を模した葉脈の白い素地部だけを残し、染め付け藍のダミだけで描いています。この技法を大鉢の表裏に施すことはともするとダミが流れるためとても緊張します。ダミの濃淡のリズム効果がうまく生かされれば成功です。

絶対的な瑞々しさ

はじめて広瀬典丈・さちよさんの作品を拝見した時、私は驚きよりも感謝を覚えた。
元染付の雄渾と、雍正釉裏の精緻さに同時に取り組む果敢さから、広瀬夫妻は、光琳以来とも思われる、音楽的諧調をもつ色絵磁器を生み出してくれた。それはしなやかな精神のみが巻き起こす奇跡であった。
北大路路山人は、古染め付けの魅力を論じて、侘び寂びの湿地に吹き込んだ涼風に喩えた。広瀬夫妻の作品は、現在という閉域に吹き込む、絶対的に瑞々しい旋風である。

文芸評論家 福田和也
(1993年推薦文より)

斬新さと親しみ易さと

広瀬君を語るとき、東福寺境内を幼い子供を背負って自転車で走っていた姿が、京都で陶芸修業の厳しさに耐えていた姿とともに眼に浮かぶ。
広瀬君夫妻の作品は、国内外の文献を貪欲に読んだ知識を生かされ、夫婦が話しあって制作するという他に類を見ない特徴を持っているから、作品に斬新さと親しみ易さが生まれ、関心と感銘を多くの人に与えている。
陶芸は奥深く、陶芸活動は真を極める道でもある。広瀬君夫婦がこれからもお互いに助け合って、ますます陶芸に精進されることを京都から祈っている。

京都大学工学博士 
山本徳治(1994年推薦文より)


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